Japanische Klassiker mit Furigana
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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
Lesen Sie 江戸情話集 (かごつるべ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.779 Zeichen · 407 Bildschirme
それでも何だか自分にうしろ暗い点があるように危ぶまれた。
彼は今にもここへお絹のおそろしい眼が現われて来はしまいかと恐れられた。お絹に別れたことも悲しかった。うるさいとか執念ぶかいとか思いながらも、彼女と自分とのあいだには切ることのできない絆がしっかりと結び付けられていたのであった。自分も無理にそれを振り切ろうとはしなかった。その絆が自然に切り放されて、自分は今初めて自由の身となった。彼は思わずほっとすると同時に、又なんとなく心淋しくなった。お絹が急に恋しく懐かしくも思われた。
お経の文句は何も知らない彼も、今夜は仏壇代りの机にお絹の俗名をかいた紙片を飾って、それにむかって一心に南無阿弥陀仏と念じた。ときどきに部屋の障子に女の髪の毛がさらさらとさわるような音が耳について、彼は総身に水を浴びせられたように感じた。
屋敷を出られない彼は今夜はここで通夜をするつもりで、明けの鴉のきこえるまで行儀よく机の前に坐っていると、初めてお絹と馴染んだ時のことや、本所の家に一緒に暮らしていた時のことや、自分がここへ来てから後のことや、いろいろの思い出がそれからそれへと湧き出して、彼の眼は絶え間なしにうるんだ。