Japanische Klassiker mit Furigana
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うたかたのき
泡沫の記
久生 十蘭
Lesen Sie 泡沫の記 (うたかたのき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.889 Zeichen · 26 Bildschirme
湖岸の柔らかな苔の上に、あたかも意志があってしたように、歴然と残された王の足跡が、そのときの情況を物語っている。
王が湖水に向って突進すると、博士はこれも洋傘を投げだし、追縋って王の服の襟を掴んだ。この動作は非常に猛烈なものだったらしく、博士の右手の指の爪が割れている。しかし、博士の力が足らなかったのか、王の振切る力が強かったのか、服の布地が裂け、博士の手には服の後身が残り、王は服の両袖だけを腕にはめて、そのまま前に進んだ。
このとき、二人の間に三メートルほどの距離が出来てしまったので、追縋ったのでは間にあわぬと思ったのか、博士は右側から前へ廻りこんで、王の行く手を遮ろうとした。岸の泥に斜に深く踏みこんだ博士の足跡で、それがよくわかる。そういう情況で、博士は王の後を追って水の中へ入った。その辺は膝ほどの水しかないが、湖底はぬるぬるした粘土質の軟泥に蔽われているので、足が辷って、どちらも思うように早く進めなかった。博士は岸から十五歩ほどの湖中で、王に追いついた。すると王は急に振返って博士と向きあった。博士を追返そうとしたのか、争うつもりだったのかわからないが、水深四尺ばかりの湖底の泥の上に、二人が揉みあった形跡がはっきりと残っている。