Japanische Klassiker mit Furigana
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ふどうするちか
浮動する地価
黒島 伝治
Lesen Sie 浮動する地価 (ふどうするちか) von 黒島 伝治 (くろしまでんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.079 Zeichen · 29 Bildschirme
一
一
ぽか/\暖かくなりかけた五月の山は、無気味で油断がならない。蛇が日向ぼっこをしたり、蜥蜴やヤモリがふいにとび出して来る。
僕は、動物のうちで爬虫類が一番きらいだ。
人間が蛇を嫌うのは、大昔に、まだ人間とならない時代の祖先が、爬虫に、ひどくいじめられた潜在意識によるんだ、と云う者がある。僕の祖先が、鳥であったか、馬であったか、それは知らない。が、あの無気味にぬる/\した、冷たい、執念深かそうな冷血動物が、僕は嫌いである。
だが、この蛇をのけると、五月の山ほど若々しい、快よい、香り高いところはない。朽ちた古い柴の葉と、萌え出づる新しい栗や、樫や、蝋燭のような松の芽が、醋く、苦く、ぷん/\かおる。朝は、みがかれた銀のようだ。そして、すき通っている。
そこでは、雉も山鳥も鶯も亢奮せずにはいられない。雉は、秋や夏とは違う一種特別な鳴き方をする。鶯は「谷渡り」を始める。それは、各々雄が雌を叫び求める声だ。人間も、そこでは、自然と、山の刺戟に血が全身の血管に躍るのだった。
虹吉は――僕の兄だ――そこで女を追っかけまわしていた。僕が、まだ七ツか八ツの頃である。