Japanische Klassiker mit Furigana
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りんらくのこうじょのおぼえがき
淪落の皇女の覚書
久生 十蘭
Lesen Sie 淪落の皇女の覚書 (りんらくのこうじょのおぼえがき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.649 Zeichen · 56 Bildschirme
ニコラスの生涯での真摯な事業は、こうして不幸な破局を結んだが、日本にはもうひとつべつな不幸が待ちうけていた。京都から大津へ小旅行をしたとき、半狂の警衛の巡査にだしぬけに斬りつけられ、前頭部に二十九糎と七糎の二カ所の傷を受けたのである。
祖父アレクサンダア二世をダイナマイトで倒してから、露国社会革命党のテロは、ウハの知事ボグタノウィッチ、内務大臣プレーヴェと執念深く継続され、ニコラスの心に和ぎえない暗い恐怖の影を落していたが、こんな極東の涯に来てまで、刀杖の難を受ける自分の運命のあまりにも窮屈なのに呆れ、卒然たる思いが心について離れなかった。
少年時代を暗殺と陰謀の間で送った英国のジェームス一世は、武装した人間のテラーを絶えず警戒し、匕首で刺されるのをふせぐために毛藁を詰めた胴着を離さなかったということだが、即位後、ニコラスは暗殺の妄想につかれてめったに宮殿から出ず、ペテルホフの庭を横切るのさえ死ぬような苦しみを味わった。刺客が宮殿に侵入したときのことを考え、「書斎と居間の壁に秘密の出入口をつくり、迷路のような廊下を伝って皇居警衛大隊の兵営まで行けるようにしてあった。