Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

Lesen Sie 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 68.023 Zeichen · 133 Bildschirme

Aozora Bunko

「愛するというのなら」

夫人の眉はひとりでにピリピリと動いた。

「何故男らしく、安んじて愛して行かないのだ。愛して疑う、愛するから疑う? 何を疑うのだ。根もない、自分でも何だか分らないような疑いで、ひとを攻める……」

攻める。――信子は胸のむかつくような衝動を感じずにはいられなかった。或る感情の齟齬(そご)した場合、お互の理解が方向を誤った時、結婚した妻と良人とほか知り得ない距離の懸隔の感が、浅間しいギャップとなって、彼女の目前に口を開いた。男性というものに、英雄的な幻想を持つ信子夫人にとって、女性である自分の前に※(もだ)え、哀訴し、泥のような疑惑の中に転げ廻る正隆は、あまりに惨めに見える。あまりに弱い。あまりに頼りない。その頼りない、廃残者めいた男を一生の良人として、自分の生涯を支配されるのかと思うと、女性の大望(アンビション)を多分に持つ信子夫人には堪え得ない焦躁であった。

その内面の争闘を、本能的な直覚で、或る程度まで魂に感じる正隆は、一層、持つ不安と疑とを煽られずにはいられなかった。信子夫人が黙れば黙るほど、落着けば落着くほど、正隆は多弁に、燃え顫えて、掴み得ない何物かを掴もうとして、後ずさる夫人の心を追うのである。