Japanische Klassiker mit Furigana
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おぼるるもの
溺るるもの
豊島 与志雄
Lesen Sie 溺るるもの (おぼるるもの) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.690 Zeichen · 36 Bildschirme
これから、時々来るのよ。そしてあたしを騙して頂戴。あたし男を騙したことはあるけれど、男に騙されたことは一度もない。それが淋しいのよ。何もあんたの奥さんになろうてわけじゃない。ただあたしを騙して頂戴、心まですっかり……。」
そんな風に、それからなおいろいろ、今覚えていないが、あたしはやたらに饒舌った。酔がまわって頭がふらふらしていた。そして臆病そうにしりごみしてる若い男の前に、あたしはつぶれてしまった。
その翌日の午後、あの人がやって来た。
あたしは眉をしかめて不機嫌な顔をしていたが、あの人の前に出ると、顔の皺がのびてしまった。君の顔には妙に皺や筋が少い、とあの人に云われたその顔を、思いきってしかめてやろうとしたが、それが出来なかった。そしてあの人のおおまかな捉えどころのない顔色をみてると、どうしていいか、どう云っていいか、分らないで、あたしはいきなり飛びついていって、引抜いた歯のあとの洞穴へ、あの人の指をもっていった。
あの人は眼色を変えた。あたしは甘えるような調子で、事もなげに歯の話をした。
あの時、思いがけなく、子供心があたしのうちに戻ってきて、それが胸一杯になった。