Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おぼるるもの

溺るるもの

豊島 与志雄

Lesen Sie 溺るるもの (おぼるるもの) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.690 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

そしてそこの河岸縁で眼前に描き出す彼女の姿は、図書館の中に落ちてる光の角※(「土へん+壽」、第3水準1-15-67)だった。ただ、太陽の光のではなく、一種の燐光の……。

先輩の好意で或る市立大学に英語教師の職を得て、図書館員をやめることが出来た時、私は生れ変ったように喜んだ。一週に四日、それも自分の受持時間だけ出勤して、月給百五十円余、国許の少しの畑地を管理してる伯父から送ってくる毎月の五十円、それだけで生活は安心だ。これから自由に勉強しよう。自由な飜訳もしよう。物も書こう……。私はまだ著述を断念しかねていた。――妻が娘を連れて、郷里へ実母の病気見舞に帰ったことが、私の気持を更に自由にした。

私は籠から放たれた小鳥のようなものだった。殆んど毎日市内を彷徨した。そして古い停滞した生活の気分を振い落そうとした。七年間の習慣の殼、頭と身体とにたまってる雲脂、薄暗い図書館と陰欝な生活との影、それを一挙に払いのけようとした。退職手当として貰った六百円のうち、百円を妻に送って、残り五百円を七年間の生活の影と共に空中に撒き散らそうとした。古い殼や雲脂や影は、利用すべきものではない。