Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうねん
潤一郎ラビリンスI――初期短編集
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 潤一郎ラビリンスI――初期短編集 (しょうねん) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.319 Zeichen · 84 Bildschirme
「あれは何?」
「舶来の燐寸で壁を擦ったのさ。暗闇なら何を擦っても火が出るんだよ。栄ちゃんの着物を擦って見ようか」
「お止しよ、あぶないから」
私は吃驚して逃げようとする。
「大丈夫だよ、ね、ほら御覧」
と、光子は無造作に私の着物の上ん前を引っ張って燐寸を擦ると、絹の上を蛍が這うように青い光がぎらぎらして、ハギハラと片仮名の文字が鮮明に描き出された儘、暫くは消えずに居る。
「さあ、あかりを付けて仙吉に会わせて上げようね」
ピシッと鑽火を打つように火花が散って、光子の手から蝋燐寸が燃え上ると、やがて部屋の中程にある燭台に火が移された。
西洋蝋燭の光は、朦朧と室内を照して、さま/″\の器物や置物の黒い影が、魑魅魍魎の跋扈するような姿を、四方の壁へ長く大きく映して居る。
「ほら仙吉は此処に居るよ」
こう云って、光子は蝋燭の下を指さした。見ると燭台だと思ったのは、仙吉が手足を縛られて両肌を脱ぎ、額へ蝋燭を載せて仰向いて坐って居るのである。顔と云わず頭と云わず、鳥の糞のように溶け出した蝋の流れは、両眼を縫い、唇を塞いで頤の先からぼた/\と膝の上に落ち、七分通り燃え盡した蝋燭の火に今や睫毛が焦げそうになって居ても、婆羅門の行者の如く胡坐をかいて拳を後手に括られたまゝ、大人しく端然と控えて居る。