Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
Lesen Sie 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.705 Zeichen · 173 Bildschirme
が、温泉が出る。と言っても、部落から小半町下りた谷間の岩に。
稀に、山越えの諸国担ぎ売りが宿をとるくらいのもので、もとより浴客などはないのだから、温泉とはいっても、沢の底の奇巌のあいだに噴き出るに任せ、溢るるままに、ちょうど入浴りごろの加減のいい湯が、広やかに四季さまざまの山の相をうつしているだけ、村びとは屋根ひとつ掛けず、なんらの手も加えていない。
岩からいきなりあつい湯へ飛びこんで、鼻唄まじりに富士をあおごうという寸法。
風流――などとは他国者のいうことで、遠国から旅をかけてわざわざ湯にはいりに来るものがあろうとは、阿弥陀沢の人は、何百年来誰ひとり考えてみたこともなかった。
湯治などという語は、あみだ沢にはないのだった。
で、前の谷の猿の湯は、長いこと、猟人が峰づたいの山狩りの汗を洗い、炭やきが、煤煙を落すだけの場所だったが――それがこのごろ、遙か下の町の人々にも知れて来たとみえて、ぽつぽつ入湯の客が登山って来る。遠く、山にとっては外国のようなひびきを持つ、花の都のお江戸からさえも、といっても、月にふたりか三人の逗留客があるにすぎないが、それでも、上って来る者のあるのに不思議はないので、じつはこの猿の湯は、さながら神薬と言っていい霊験を有っているのだ。