Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
Lesen Sie 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.705 Zeichen · 173 Bildschirme
そう言ってお多喜は、女を抱きかかえるようにして上った。
畳の焼けた六畳の間。壁に、三味線が一つ、ぶらりと下がっているので。
「あなたはほんとにここを、御自分のお家と思召して、ゆっくり寛いで下さいましね。」
狂女は、わかったとみえて、お多喜のまえに横ずわりにすわって、ぼんやりとそこらを見まわしている。
「お名前は何とおっしゃいますの?」
子供に言うように、お多喜はゆっくり話しかけてみたが、狂女はやはり答えないで、今度は、うつ向いて、さめざめと泣きだすのである。
気ちがいだとは思っても、お多喜は呆気に取られながら、
「お宅はどちらですか。」
もとより、通じようはずはない。
自宅へは連れて来たものの、人手のないところへこのまま置くわけにはゆかず、それかと言って、抛りだすような無情なこともできなくて困りはてて、お多喜がじっと女の顔を見つめると――。
いま初めて気がついた。
たましいの抜けた眼をして、顔ぜんたい、汗と砂ほこりにまみれてはいるが、狂女は、この深川の羽織衆の中にもそうたんとはあるまいと思われる美人で、白い膚、鈴を張ったような眼、じつに高貴な面ざしなのだ。