Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
ろうしつき
狼疾記
Lesen Sie 狼疾記 (ろうしつき) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.540 Zeichen · 47 Bildschirme
気が付くと、三造の前の真白な瀬戸物皿の上に、いつの間に来たのか、それこそ眼の覚めるほど鮮やかな翠色をしたすいっちょが一匹ちょこんと止って、静かに触角を動かしている。素直に伸びた翅の見事さ。白く強い電燈の光の下で、まことに皿までが染んでしまいそうな緑色である。その白と緑とを見詰めながら、三造はなおしばらくM氏の奥さんの話を聞いていた。
聞いている中に、いつもこの人間に対して感じる馬鹿馬鹿しさは消えてしまい、一種薄気味悪い恐ろしさと、へんな腹立たしさ(直接M氏に対する怒りではない。また、現在立たされている自分の位置の馬鹿らしさに腹が立つのとも少し違う。)との交った・妙な気持に襲われて来た。
知らぬ間に三造もかなり飲んでいたようで、しばらくは相手の話も一向耳に入らなかったが、そのうちに何か話し方が違うらしいのにふと気がついて見ると、M氏は既に奥さんの話を止めて、「ある他の事柄」について語っている。ある他の事柄について、などといったのは、それが今までのM氏の話題とはまるで異って、(もちろん初めは何の事やらさっぱり意味が解らなかったが、聞いて行く中に段々判って来た所によると、)全く驚いたことに一種の抽象的な感想――いわば、彼の人生観の一片のようなものだったからである。