Japanische Klassiker mit Furigana
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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
Lesen Sie 獄中への手紙 (ごくちゅうへのてがみ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 374.755 Zeichen · 745 Bildschirme
それっきり夏の海というものは知りません。あとはよく郡山のおばあさんのところへ行き、一度ほど沓掛かへ行き、一度信州へゆき(これはお話をしに)そんなものです。こういう雨の日にきつくなって肌にまつわりつくような潮の匂い、雨だれのところに這い出すカニ、そんなことを思い出します。虹ヶ浜の夏にもやっぱりこんな雨の日があったでしょうね、そして、きっと独特な一日の風情でしたろう。家の中に足音が大きく響くようだったり、子供の声が響いたりして、雨戸を引いたところもあったりして。あの辺の砂や道やを何となし思いやります。私はなかなか立体的に思いやるのよ、何だか分らないけれどもほんのりとしたやきもちもこめて。心持のいいやきもちもこめて。そんな気持でこうやって葭戸のかげであなたへの手紙を書いている、この雨の日の風情もなかなかすてがとうございます。濡れている梧桐の葉かげに小さい光がチラチラしているようなところがあってね。
ちょっと舌の上に、一つ追想のボンボンをのせてあげましょう、雨の音をききながら味うおやつのために。私はこっち側に坐って、それを眺めて、眼のなかが爽やかなような心持で笑いながら、どう? 美味しいこと? ときいているそんな心持。