Japanische Klassiker mit Furigana
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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
Lesen Sie 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二 (うみがめ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 144.507 Zeichen · 291 Bildschirme
どうにかこうにか車内にはもぐり込んだものの、ぎっしりと押し詰められたままで突っ立っているのです。おまけに残暑が強いので、汗の匂いやら人いきれやらで眼が眩みそうになってくる。僕は少し気が遠くなったような形で、周囲の人たちが何かがやがやしゃべっているのも、半分は夢のように聞こえていたのですが、この人の声だけははっきりと耳にひびいて、僕もすぐに答えました。
「まったく大変です。実にやり切れません。」
「あなたは震災後、はじめてお乗りになったんですか。」
「そうです。」
「それでも上りはまだ楽です。」と、その男は言いました。「このあいだの下りの時は実に怖ろしいくらいでした。」
その男は単衣を腰にまき付けて、ちぢみの半シャツ一枚になって、足にはゲートルを巻いて足袋はだしになっている。その身ごしらえといい、その口ぶりによって察しると、震災後に東京からどこへか一旦立退いて、ふたたび引っ返して来たらしいのです。僕はすぐに訊きました。
「あなたは東京ですか。」
「本所です。」
「ああ。」と、僕は思わず叫びました。東京のうちでも本所の被害が最もはなはだしく、被服厰跡だけでも何万人も焼死したというのを知っていたので、本所と聞いただけでもぞっとしたのです。