Japanische Klassiker mit Furigana
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くじょしょうろく
痀女抄録
矢田 津世子
Lesen Sie 痀女抄録 (くじょしょうろく) von 矢田 津世子 (やだつせこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.578 Zeichen · 65 Bildschirme
ながい間視入っていた。白い花についている埃りを指のはらでそうっとはらった。そして、面をそむけて、ながいこと、黙していた。
「これを、わたくしにお譲り下さらんでしょうか」
不意に、師匠がこう切り出したので、龍子はびくっとした。声音は徐かだったが、真正面に向けたその眼は意外に烈しく、龍子は、射られる気がして、うろたえ、けれども何気ないふうに逸らした。この師匠の、これ程までの執心が、龍子には訝かられた。と、ふと、この師匠の執心が、龍子の心を衝いてきた。急に、龍子は、このスリッパに愛着をもち出した。いまは、師匠の所有となった小枠の刺繍に、はげしい執着をもった。
「お譲り下さらんでしょうか」
師匠は重ねて言った。
「これだけは、お寿女さんの折角の心づくしなのですから……」
龍子は、にこやかに、素早い偸み見をしながら言った。
「鳥の刺繍も、あたくし頂けるものとばかり思っていましたけれど、あれは、ほんとうによい記念になりましたのに……」
暗に、自分の所有に帰したい心を言ったのだけれど、師匠はききつけぬ容子で、やがて、言葉尠なに辞し去った。
「お寿女さんは妙だね。あの爺さんにだけは会いたいと言って、せがんだそうだがね。