Japanische Klassiker mit Furigana
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びょうしつのげんえい
病室の幻影
豊島 与志雄
Lesen Sie 病室の幻影 (びょうしつのげんえい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.426 Zeichen · 11 Bildschirme
然しお前自身はどこにあるのだ。お前自身の感情はどこにあるのだ。お前の眼は木や石と同じだ、人間の眼ではない。お前は前に、よく生きよく死ぬんだと云った。然しそういう考え方をし、そういう見方をして、それでよく生きよく死ぬことが出来るだろうか。お前は自己を取失っているのだ、自我という意識を取失っているのだ。
A――いや、俺はお前よりももっと広い所に踏み出しているだけだ。お前は何事をも何物をも、自分と他とに対立させて考えている。然し俺にとっては、凡てが自分であって、他なるものはない。俺はこの室にはいってから毎日、あの窓越しに、庭の樹々の梢や青空や日の光や雲の影などを、静かに眺めて暮してきた。そして今では、それらのもの凡てが自分だという心持になっている。昨日だったか、窓の外に雀が飛んできて、其処の窓縁でちゅちゅと鳴いては、また何処かへ飛んでいった。すると俺は、自分自身が雀になって、自由に空中を飛び廻ってる気がした。それは何とも云えない自由な晴々とした気持だった。
B――その雀は俺も見た。そして俺はその雀が飛び去った後で、危く涙をこぼしそうになった。生きているうちにあの雀を再び見ることがあるかしら、とそんなことを思うと、世の中が暗くなるような気がした。