Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme
急激な心の変化は私自身にも説明の出来ないことで、恐らく恋の神様ばかりが知っている謎でありましょう。私はいつの間にか立ち上って、部屋を往ったり来たりしながら、どうしたらこの恋慕の情を癒やすことが出来るだろうかと、長い間考えました。と、どう考えても癒やす方法は見付からないで、ただただ彼女の美しかったことばかりが想い出される。過去五年間の共同生活の場面々々が、ああ、あの時にはこう云った、あんな顔をした、あんな眼をしたと云う風に、後から後からと浮かんで来て、それが一々未練の種でないものはない。殊に私の忘れられないのは、彼女が十五六の娘の時分、毎晩私が西洋風呂へ入れてやって体を洗ってやったこと。それから私が馬になって彼女を背中へ乗せながら、「ハイハイ、ドウドウ」と部屋の中を這い廻って遊んだこと。―――どうしてそんな下らない事がそんなにまでも懐かしいのか、実に馬鹿げていましたけれど、若しも彼女がこの後もう一度私の所へ帰って来てくれたら、私は何より真っ先にあの時の遊戯をやって見よう。再び彼女を背中の上へ跨がらせて、この部屋の中を這って見よう。それが出来たら己はどんなに嬉しいか知れないと、まるでその事をこの上もない幸福のように空想したりするのでした。