Japanische Klassiker mit Furigana
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しろあり
白蟻
小栗 虫太郎
Lesen Sie 白蟻 (しろあり) von 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 54.099 Zeichen · 106 Bildschirme
あるんなら喜惣よ、こけえ早う持ってきたらどうじゃな」
「そんなものは、ありゃせんぞ」と白痴特有の、表情のない顔を向けて、喜惣は、新しく訪れた観念のために、前の争いを忘れてしまった。そして、仔鹿を結わえた鉄棒を、再び廻しはじめながら、
「最初から、ありゃせん。たぶん烏にでもつつかれたんじゃろう」
「いや熊鷹じゃろう。あれは意地むさいでな。だがなあ喜惣、この片身はどうあっても、お前にはやれんぞ。あれは、第一儂の穽なんじゃ」と食欲以外には、生活の目的とて何もない十四郎が、あくまで白痴の弟を抑えつけようとすると、
「なに、鷹が……」と時江は、それまでにない鋭い声を発した。が、その気勢にも似ず、それからぼんやりと仔鹿の頸を瞶めはじめた。
「欲しくもないものなら、熊鷹か鷲でもいいだろうが、時江、いったいお前は何を考えとるんだな」とその様子を訝しがって、十四郎が問い返すと、時江は皮肉な笑いを泛べて云った。
「いいえ、なんでもないことなんですの。ただ大兄さんが、仔鹿の傷のない片身を、とろうとおっしゃるので、それはいくら望んだって、もう出来ないことだと云いたいだけですわ。いいえ、どう思ったって、この谿間に来てしまったからには、取れるもんですか」