Japanische Klassiker mit Furigana
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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
Lesen Sie 私の履歴書 (わたしのりれきしょ) von 井上 貞治郎 (いのうえていじろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 34.380 Zeichen · 69 Bildschirme
青い空。仁川の町のうしろには白っちゃけたゆるい丘が横たわって、なんとなく神戸に似た風情である。初めて踏む異郷の土に、ふととまどいを感じたが落着く先があるので私の心は案外軽かった。しかし連れられていってみると、婦人の家は路地の奥の二階住い。亭主は人力車の車夫である。夫婦の方では娘の養子にするいい男を拾ってきたつもりなのには弱った。世話になっているうち、本町の山路という雑貨屋が私の同郷であるのを知り、これ幸いと身を寄せることになった。
この雑貨屋では私は番頭格ということだったが、ひどく追い使われた。ここにも十九になる実に美しい娘がいた。先代の梅幸にちょっと似ている。しかし気の毒にもこの娘は口が不自由だった。店の方でも私をこの娘の養子に、と考えていたらしい。彼女の方も私にひそかな好意を寄せているらしいのは、そのそぶりでわかった。
そんなころ、お雪の兄から彼女が旧の五月七日に死んだとの知らせを受取ったのである。私は思わず店を走り出して港にいき、波止場の石に腰かけその手紙をなんどもなんども読み返した。とうとう死んだのか。あのとき親もとへ着て帰ったあわせが、おれが買ってやったたった一枚の着物だったが……と思ううち、せき上げる涙をどうすることもできなくなった。