Japanische Klassiker mit Furigana
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どうてい
童貞
夢野 久作
Lesen Sie 童貞 (どうてい) von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.572 Zeichen · 27 Bildschirme
その上から草原一面にかけて、真赤に錆びた錻力の切り屑、古新聞、古バケツ、ゴム靴、古タイヤ、麦稈帽なぞが、不規則な更紗模様を描いて散らばっていた。あとは名も知らぬ蔓草や、ヒョロ長い雑草が元気よく茂り合っているばかりであった。
彼はここに来て、いくらか眠ってから、やっと今眼を醒ましたものらしい。胸の痛みも薄らいでいた。腹の空いたのも、咽喉が乾いたのも忘れて、不思議なほど澄み切った気持ちになっていた。彼は背中にモゾモゾと這い込む蟻を磨り潰そうともしないまま静かに眼を閉じてみた。そうして今日中の出来事を今一度、思い出そうとこころみたが、古井戸の水のように静まり返った彼の意識の中には何の記憶の断片も浮かばなかった。ただ彼自身の空虚になった霊魂と、無力になった肉体とが草原の中に投げ出されているのを感ずるばかりであった。彼はそうした感じの中に、森閑となった耳を、澄ますともなく澄ましていた。
……はるかに、いろんな物音がきこえて来る。電車、自動車、飛行機のうなり、工場の笛……その他、もの悲しいような……淋しいようないろいろな物音がこの空地に流れ込んで、草の株を枕にした彼の耳元まで忍び寄って来た。