Japanische Klassiker mit Furigana
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きょうそう
競漕
久米 正雄
Lesen Sie 競漕 (きょうそう) von 久米 正雄 (くめまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.312 Zeichen · 34 Bildschirme
そして窪田の命令で珍しく小松宮別邸の下で小休みをした。その時傍を過ぎた伝馬の船頭が急に何か見つけて騒ぎ出した。何だろうと思って見ると艇とその船の間五間ばかり先きを一つの黒いものが浮いて流れて行く。船頭らは「土左衛門だ。土左衛門だ」と叫んでいるのであった。皆はこの時只黒い棒杭のような浮游物を瞥見した。やがてこんな時に迷信を持ちたがる久野が「今日は勝った」と言い出したが、それが何だか妙な不安を与えたことも争われなかった。
そこで彼らは白鬚橋下から三分の力漕をして大連湾まで行った。いつの間にかそこらの陸にはほんとの春が来ていた。傍の工場主の邸らしい庭内では椿の花がぱっと咲いていた。もう水神のあたりに桜は乱れていた。誰れかが「もうここも見納めだぞ」と言った。何でもない言葉だが皆はその時の感動を笑いに紛らした。そしておのおの油のような川の面や、青み渡った向う岸の蘆や、霞んだ千住の瓦斯槽なぞを見やった。
「どうだ皆体の工合は。昨夜よく寝たか」と窪田が皆に訊ねた。そして彼自身も「俺はほんとによく寝たぞ」と言った。後に聞いたところによると彼はその夜再発しかかった中耳炎に悩まされて、ろくろく眠れなかったそうである。