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Japanische Klassiker mit Furigana

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そろばんがこいをかたるはなし

算盤が恋を語る話

江戸川 乱歩

Lesen Sie 算盤が恋を語る話 (そろばんがこいをかたるはなし) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.096 Zeichen · 16 Bildschirme

Aozora Bunko

ふと飛んでもない考えが彼の頭に浮んだのです。

「だが、果してそんなことがあり得るだろうか」

彼はその馬鹿馬鹿しい考えを一笑に付して終おうとしました。しかし、一度浮んだ疑いは容易に消し去るべくもありません。彼はもう、それを確めて見ないではじっとしていられないのでした。

彼は大急ぎで会社へ引返しました。そして、小使に会計部の事務室のドアを開かせると、やにわにS子の机の前へ行って、そこの本立てに立ててあった原価計算簿を取出し、××丸の製造原価を記入した部分を開きました。

「八十三万二千二百七十一円三十三銭」

これはまあ何という奇蹟でしょう。その帳尻の締高は偶然にも「ゆきます」というあの暗号に一致していたではありませんか。今日S子はその締高を計算したまま算盤をかたづけるのを忘れて帰ったというに過ぎないのです。そして、それは決して恋の通信などではなくて、ただ魂のない数字の羅列だったのです。

余りのことにあっけにとられた彼は、一種異様な顔つきで、ボンヤリとそののろわしい数字を眺めていました。総ての思考力を失った彼の頭の中には、彼の十数日にわたる惨憺たる焦慮などには少しも気づかないで、あの快活な笑い声を立てながら、暖かい家庭で無邪気に談笑しているS子の姿がまざまざと浮んで来るのでした。