Japanische Klassiker mit Furigana
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つきじがし
築地河岸
宮本 百合子
Lesen Sie 築地河岸 (つきじがし) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.825 Zeichen · 16 Bildschirme
道子は、
「おそくなりました」そう云いながらベレーをぬいで壁の釘にかけ、すこし気づかわしげに、
「もうあと何枚ですみます?」ときいた。
「もうこれでおしまいですの」
「それはよかったわね。――どなたか来ましたか?」
「いいえ」
水色のワンピースを着た千鶴子はいいえと云って首をふりかけて、
「あ、すみません、一人いらっしゃいました」
おかしそうにすこし雀斑のある瞼の中で眼玉をくるくるさせた。
「とても髭の特徴のある方が見えましたわ。よくいらっしゃる方――」
その日は午後一時から関係者の定期集会がある日なのであった。
「髭の特徴がある人って――誰かしら」
千鶴子は団扇をとって、向い側から道子の方へ風を送ってやりながら、
「一番ちょいちょい見える方――会計の方じゃありません?」
「豊岡さん? あのひとならそんな髭なんかないわ」
「あらア、だってあったんですもの」
「だってあの人の顔なら私もう二年も見てるのよ」
「そうかしら――たしかにあの方だと思うんですけど。あの髭……」
いかにもそれは特別な髭という調子なので、道子も、云っている千鶴子もとうとうふき出した。
「まあいいわ、又来るって云ったんでしょう」