Japanische Klassiker mit Furigana
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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
Lesen Sie 紫の壜 (むらさきのびん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.802 Zeichen · 24 Bildschirme
それでも、空襲の時、彼女は危険を冒して老人を助けようとした。煙と焔にまかれて倒れてる老人を救おうとして、首から肩へ大火傷をした。――そういうことを、若主人の方はわきから見ていた。素知らぬ風でと言えるほど冷淡に、わきから見ていた……。
告白、ともつかず、独白、ともつかない、彼女の断片的な露骨な言葉は、奇妙な調子を帯びていた。酔余の放言のようでもあり、腹を立ててるようでもあった。それが急に打ち沈んで、しんみりと彼女は言った。
「あの時、結婚のことを一言、なぜ言って下さらなかったの。わたし、どんなにそれを待ってたか……。でも、いくら待っても、だめだった。……おかしいでしょう。」
ふいに彼女は笑った。
その笑いが、私を元気づけた。
「そんなら、なぜ、君の方から言わなかったの。」
「言えると思って?」
「言えるさ。」
「愛のことじゃない……結婚のことよ。わたし貧乏だったわ。」
「貧乏でも……。」
言いかけて、私は口を噤んだ。なにか寒々としたものに突き当ったのだ。
「こんな話、もうやめましょう。わたし、今日は酔いたいのよ。」
私には、へんに酔えないものがあった。そしてその方へ、気持ちが落ちこんでいった。