Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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かいだんいちやぞうし

綺堂随筆 江戸のことば

岡本 綺堂

Lesen Sie 綺堂随筆 江戸のことば (かいだんいちやぞうし) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.152 Zeichen · 27 Bildschirme

Aozora Bunko

そうして、そのあくる日は重兵衛が久し振りで網打ちに出てゆく姿を見た。めずらしいことだと近所でも噂していると、彼はその後毎日網打ちに出て、ほかの漁師達とおなじように稼ぎはじめた。それでも決して夜網には出ないで、日の暮れる頃には必ず帰って来た。おせんの顔の疵も塗り薬などしてだんだんになおって来た。近所の人がその顔を指さして、そんなになっても実家へ帰りたくはないかと手真似で訊いたことがあるが、おせんはいやな顔もせず、さりとて笑いもせず、少しく顔を紅くして頭をふっていた。

九月の末である。その頃はまだ旧暦の秋もおいおいに暮れかかって、深川には時雨めいた空が幾日もつづいた。その日も朝から陰って、貝殻を置いた屋根の上に折りおりは弱い日かげを落としていたが、午後から東南の風がにわかに凪いで、陽気もうすら寒くなったかと思うと、三時過ぎる頃から冷たい霧が一面に降りて来て、それが次第に深くなった。重兵衛の軒さきに立っている一本の柳も、その痩せた姿が暗く包まれてしまった。

「これじゃあ沖はどうだろう。」

ここらの人たちは沖を案じていたが、沖の霧は果たして陸よりも深かった。