Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

Lesen Sie 肌色の月 (はだいろのつき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.706 Zeichen · 101 Bildschirme

Aozora Bunko

「ああ」

大池忠平と名乗ったあのスポーティな紳士だった。全身びしょ濡れになり、芯のぬけた、とほんとした顔で立っている。

「こんどこそ殺られる……」

久美子は声にならない声で悲鳴をあげながら、片闇になった階段の下へ逃げこんだ。

偽装自殺が成功するかしないかという瀬戸際に、危険をおかしてロッジへ入りこんでくる以上、なにをするつもりなのかわかっている……今朝、石倉がやりかけたことを、大池忠平が完了しようというのだ。

風の中に歌声がある。

カンテラを持って、湖畔を練り歩いている子供達の歌声が、湖の東岸のほうへ遠退いて行く。小さな湖をへだてた、つい向う岸に、三百人近くの人間の集団がキャンピングしているのに、危急を告げることも助けを求めることもできないという自覚は、世にも残酷なものだった……

大池は腕組みするような恰好で胸を抱き、脇間の扉口のそばに影のように立っていた。ものの十分ほどもしてから、服の袖で額の汗を拭うと、片手で胸をおさえ、壁にすがりながら壁付灯の下まで行ったが、力がつきたように、そこで動かなくなってしまった。

「どうかしたんだわ」

久美子の恐れていたようなことは、なにもなかった。