Japanische Klassiker mit Furigana
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くさもみじ
荷風随筆集(下)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下) (くさもみじ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.512 Zeichen · 63 Bildschirme
この腰掛で若い者が踊子と戯れ騒ぐのさえ、爺さんは見馴れているせいか、何が面白いのだと言わぬばかりの顔附で見向きもしなかった。
寒くなると、爺さんは下駄棚のかげになった狭い通路の壁際で股火をしながら居睡をしているので、外からも、内からも、殆ど人の目につかない事さえあった。
或年花の咲く頃であったろう。わたくしは爺さんが何処から持って来たものか、そぎ竹を丹念に細く削って鳥籠をつくっているのを見たことがあった。よく見る町の理髪師が水鉢に金魚を飼ったり、提燈屋が箱庭をつくって店先へ飾ったりするような趣味を、この爺さんも持っていたらしい。爺さんはその言葉遣いや様子合から下町に生れ育ったことを知らしていた。それにしても、わたくしは一度もこの爺さんの笑った顔を見たことがなかった。人は落魄して、窮困の中に年をとって行くと、まず先に笑うことから忘れて行くものかも知れない。
戦争が長びいて、瓦斯もコークスも使えなくなって、楽屋の風呂が用をなさなくなると、ほどもなく、爺さんは解雇されたと見えて、楽屋口から影の薄い姿を消し、掃除は先の切れた箒で、新顔の婆さんがするようになった。