Japanische Klassiker mit Furigana
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くさもみじ
荷風随筆集(下)
永井 荷風
Lesen Sie 荷風随筆集(下) (くさもみじ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.512 Zeichen · 63 Bildschirme
何故とも分らず、この晩の事が別れた後まで永くわたくしの心に残っていた。
冬の夜はしんしんとふけ渡って、窓の外には庭の樹を動すゆるやかな風の音が聞えるばかり。犬の声もせず鼠の音もしない。襖のあく音に、わたくしは筆を手にしたままその方を見ると、その頃家にいた八重という女が茶と菓子とを好みの器に入れて持ち運んで来たのである。何やかやとはなしをしている中に、鐘の音が聞える。遠い目白台の鐘である。わたくしはその辺にちらかした古本を片付ける。八重は夜具を敷く前、塵を掃出すために縁側の雨戸を一枚あけると、皎々と照りわたる月の光に、樹の影が障子へうつる。八重はあしたの晩、哥沢節のさらいに、二上りの『月夜烏』でも唱おうかという時、植込の方で烏らしい鳥の声がしたので、二人は思わず顔を見合せて笑った。その時分にはダンスはまだ流行していなかったのだ。
麻布に廬を結び独り棲むようになってからの事である。深夜ふと眼をさますと、枕元の硝子窓に幽暗な光がさしているので、夜があけたのかと思って、よくよく見定めると、宵の中には寒月が照渡っていたのに、いつの間にか降出した雪が庭の樹と隣の家の屋根とに積っていたのである。