Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

Lesen Sie 落ち梅記 (おちばいき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.748 Zeichen · 61 Bildschirme

Aozora Bunko

次席家老と側用人を兼ねる重要な席である、辞退することはできない。すぐ出立せよというので、帰宅すると父に報告し、母にはその用意を頼んだ。――父に報告したときのことであるが、それを聞いた助左衛門は、はげしく涙をこぼしながら幾たびも頷き、震える指で次のような意味を書き示した。

「身命を惜しまず、家も名もあらず、奉公ただひとすじと覚悟せよ」

もっと多く云いたいことがある、しかしそれを伝えることができない。ごく常識的なその言葉にすべてのものをこめた。この中から把むべきものを把め、――そういう感じがおぼろげに了解された。金之助は父の眼をみつめながら、父上の子として出来るだけのことを致しますと誓い、自分を信じて、安心して療養されるようにと云った。……それが最後の別れとなったのであるが、そのとき父がしきりに涙をながし、震える手でこちらの手を握ったまま、いつまでも放そうとしなかったこと、なにか云いたそうに唇を動かしては喉声をだしたことなど、金之助には忘れることのできない悲しい記憶となって残った。

江戸邸へ着いてからは荒忙そのものであった。しかし父が賜暇を得て、居宅で事務を執ることを許されたあいだ、側にいて手助けをした経験がずいぶん役立ち、さしてまごつくこともなくその職に馴れていった。