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Japanische Klassiker mit Furigana

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とうじゅうろうのこい

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

菊池 寛

Lesen Sie 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (とうじゅうろうのこい) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 37.146 Zeichen · 74 Bildschirme

Aozora Bunko

八

藤十郎の心にそうした、物狂わしい風が起っていようとは、夢にも気付かないらしいお梶は押入れから白絖の夜着を取出すと、藤十郎の背後に廻りながら、ふうわりと着せかけた。

白鳥の胸毛か何かのように、暖い柔かい、夜着の感触を身体一面に味った時、藤十郎のお梶に対する異常な興奮は、危く爆発しようとした。が、彼の律義な人格は、咄嗟に彼の慾情の妄動をきっぱりと、制し得たのである。藤十郎は、宗山清兵衛の事を考えた。また、貞淑と云う噂の高いお梶の事を考えた。そして自分が、今まで色事をしながらも、正しい道を踏み外さなかったと云う自分自身の誇を考えた。彼のお梶に対して懐いた嵐のような激動は、忽ち和ぎ始めたのである。

お梶は、平素の通のお梶であった。彼女は夜着を着せてしまうと「さあ、お休みなされませ。彼方へ行ったら女どもに、水など運ばせましょうわいな」と、愛想笑いを残して足早に部屋を出ようとした。その刹那である。藤十郎の心にある悪魔的な思付がムラムラと湧いて来た。それは恋ではなかった。それは烈しい慾情ではなかった。それは、恐ろしいほど冷めたい理性の思付であった。