Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しゅみのいでん

趣味の遺伝

夏目 漱石

Lesen Sie 趣味の遺伝 (しゅみのいでん) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 38.235 Zeichen · 77 Bildschirme

Aozora Bunko

余のごときは黄巻青帙の間に起臥して書斎以外にいかなる出来事が起るか知らんでも済む天下の逸民である。平生戦争の事は新聞で読まんでもない、またその状況は詩的に想像せんでもない。しかし想像はどこまでも想像で新聞は横から見ても縦から見ても紙片に過ぎぬ。だからいくら戦争が続いても戦争らしい感じがしない。その気楽な人間がふと停車場に紛れ込んで第一に眼に映じたのが日に焦けた顔と霜に染った髯である。戦争はまのあたりに見えぬけれど戦争の結果――たしかに結果の一片、しかも活動する結果の一片が眸底を掠めて去った時は、この一片に誘われて満洲の大野を蔽う大戦争の光景がありありと脳裏に描出せられた。

しかもこの戦争の影とも見るべき一片の周囲を繞る者は万歳と云う歓呼の声である。この声がすなわち満洲の野に起った咄喊の反響である。万歳の意義は字のごとく読んで万歳に過ぎんが咄喊となるとだいぶ趣が違う。咄喊はワーと云うだけで万歳のように意味も何もない。しかしその意味のないところに大変な深い情が籠っている。人間の音声には黄色いのも濁ったのも澄んだのも太いのも色々あって、その言語調子もまた分類の出来んくらい区々であるが一日二十四時間のうち二十三時間五十五分までは皆意味のある言葉を使っている。