Japanische Klassiker mit Furigana
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とおのへ
遠野へ
水野 葉舟
Lesen Sie 遠野へ (とおのへ) von 水野 葉舟 (みずのようしゅう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 55.903 Zeichen · 117 Bildschirme
一つの方には、東京への土産にと言って、S君の家でとれた胡桃を風呂敷に包んでどっさり入れた。さげると穀がすれて堅いカラカラいう音がする。
で、改めて坐った。天井の高い、薄暗い、広い寺の堂のような室のなかを、私は心残りがするように見廻わした。隣りの室とのあいだの障子が開いていた。いろいろのものが、積み込んである、田舎家の住居が見える。燻ぶった、黒い暗い室の奥の方に、爐に赤く火の燃えるのが見える。私はこの爐の辺で一生を送る人、送った人の身の上を思った。
そこへ、S君の阿母さんが新しく茶を入れて持ってこられた。私はもうそわついた心がすっかり落ちついて、かえって一と月も入っていたこの室を出て行くと云うことに、微かながら悲哀の情が起こるのを覚えた。
私とS君と阿母さんとで、かりそめに向い合って坐った。私はS君の阿母さんの顔をしげしげと見た。日に焼けた皮膚には深い皺がよっている。単純な子供のような目には、ただ情愛だけが表われていた。この山に生えている樹、そのままのような人だ。その年をとった顔の皺のあいだには、私達が立って行く跡を寂しく思う情が表われていた。
私はこの短い、そわそわした出発前の十数分のあいだに、沈み切った静寂の感に打たれた。