Japanische Klassiker mit Furigana
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ななこ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Lesen Sie 野菊の墓 (ななこ) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.271 Zeichen · 144 Bildschirme
省作はこんなことをひとりで言って、待ち合せる恋人がそこまで来たのも知らずにおった。お千代が、ポンポンと手を叩く、省作は振り返って出てくる。
「省さん、暢気なふうをして何をそんなに見てるのさ」
「何さ立派なお堂があんまり荒れてるから」
「まあ暢気な人ねい、二人がさっきからここへきてるのに、ぼんやりして寺なんか見ていて、二人の事なんか忘れっちゃっていたんだよ」
お千代は自分の暢気は分らなくとも省作の暢気は分るらしい。省作は緩かに笑いながら二人の所へきた。
思うこと多い時はかえって物はいえぬらしく、省作はおとよに物もいわない、おとよも顔にうるわしく笑ったきり省作に対して口はきかぬ。ただおとよが手に持つ傘を右に左にわけもなく持ち替えてるが目にとまった。なつかしいという形のない心は、お互いのことばによって疎通せらるる場合が多いが、それは尋常の場合に属することであろう。
今省作とおとよとは逢っても口をきかない。お千代が前にいるからというわけでもなく、お互いにすねてるわけでもない。物を言わなくとも満足ができたのである。なつかしいという形のない心が、ことばの便りをからないで満足に抱合ができたからである。