Japanische Klassiker mit Furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Lesen Sie 金狼 (きんろう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 89.438 Zeichen · 179 Bildschirme
「反対よ。……汽笛の音をきいてたら、どこか遠いところへ行きたくなってんの」
久我は葵のそばへ椅子をひいてきて掛けながら、
「……(風には竜眼の香り、雲にはペタコのこえ、酷熱のいいようなき楽しさ)……僕はもういちど亜熱帯で暮したい。僕の感情はあの空気に触れると、どういうものか、溌剌と昂揚してくるんだね。健康にさえなる。……上海はつまらないが、せめてそこまででもよかったのに。……君には気の毒なことをした。期待だけさせて……」
葵はとりなすような調子で、いった。
「上海も台湾もきらいよ。……この花のなかでじっとしてるほうが、あたし楽しいの」
久我は葵の顔を眺めながら、
「そんなこともあるまい。……君はこのごろお上手をいうよ。……なぜだろう」
思わず眼をふせて、
「……でも、これがあたしの自然よ」
「いや、そうじゃない。君が変化を見せだしたのは、この二三日来だよ。……それに葵、君はなぜそんなに眼を伏せる?」
あわてて顔をあげると、葵は、
「なぜ? あたし、なにしたん?」
「……君はこの二三日なにか考えてるね。……どんなことを考えているか、だいたい僕にはわかってるさ。……(天井をながめながら)たとえば、君はこんな風にかんがえる。