Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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かがみのなかのつき

鏡の中の月

宮本 百合子

Lesen Sie 鏡の中の月 (かがみのなかのつき) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.290 Zeichen · 15 Bildschirme

Aozora Bunko

快く梳けずられてゆく長いたっぷりした髪を背中にさばいて、濡縁のところで涼んでいると、何心なく持っていた手鏡の中に小さく月がうつっている。畑のむこうの杉林の梢のところが黒々と瀧子の白地に朝顔を出した浴衣の肩のあたりを横切ってうつっていて、その上の空に月が皎々と輝きながら泛んでいる。しーんとした夜の縁端で鏡の中に迫って鮮やかな自分の生きている一人の顔と遠景をなしている月や森を凝っと見ていると、日中のきまりきった暮しの表面からでは見えない人生の刻み目があって、そのひとつが今夜珍しくも自分に呼びかけても来るように感じられて来るのであった。

翌る日の午後、瀧子は汽車を二駅乗り越して、師範が同期の親友、溝口ゆき子の家へまわった。

「ごめんなさいね、暑いわねえ――」

簾のかげで、早速オリーヴ色の重い袴の紐をときにかかる瀧子を親密さのこもった眼差しで見上げながら、ゆき子は、

「本当にあなたはいつも瑞々しいねえ、暑い時はなおさら綺麗だ」

手早く井戸からくみ立ての冷たい水に梅酢をおとしてすすめた。瀧子は伊達巻姿のまま、息もつかずそのコップをあけた。

「ああ、やっとこれで正気にかえった! 御馳走さま」