Japanische Klassiker mit Furigana
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あめのかみこうち
雨の上高地
寺田 寅彦
Lesen Sie 雨の上高地 (あめのかみこうち) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.473 Zeichen · 9 Bildschirme
夜中雨が降って翌朝は少し小降りにはなったがいつ止むとも見えない。宿の番傘を借りて明神池見物に出掛けた。道端の熊笹が雨に濡れているのが目に沁みるほど美しい。どこかの大きな庭園を歩いているような気もする。有名な河童橋は河風が寒く、穂高の山塊はすっかり雨雲に隠されて姿を見せない。この橋の両側だけに人間の香いがするが、そこから六百山の麓に沿うて二十余町の道の両側にはさまざまな喬木が林立している、それが南国生れの自分にはみんな眼新しいものばかりのような気がする。樹名を書いた札のついているのは有難いがなかなか一度見たくらいでは覚えられそうもない。
池の方へ路の分れる処に茶店がある。そこで茶をのんで餅をつまんでいたら、同宿の若い夫婦連れがあとからはいって来た。腰を下ろしたと思うと御主人が「や、しまった、財布を忘れた」といって懐を撫でまわしている。失礼ではあったが自分たちの盆の餅をすすめて、そうしてこの人たちから新築のホテルに関する噂を聞いた。この若く美しい夫人がスクリーンで見る某映画女優と区別の出来ないほどに実によく似ていた。
橋を渡る頃はまた雨になって河風に傘を取られそうであった。