Japanische Klassiker mit Furigana
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あおいひも
青い紐
田中 貢太郎
Lesen Sie 青い紐 (あおいひも) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.592 Zeichen · 11 Bildschirme
彼は起きて四辺を見たが女の姿は見えなかった。
「ここにいる女の方といっしょに来たのですが、どこへ往ったのでしょうか」
「ここにいるって、ここには何人もいないが、何人にも貸してないから」
「おかしいな、僕はそこの蕎麦屋の前でいっしょになってやって来て、棚に酒があると云って女が執ろうとしたが、棚が高くて執れないから、私が執ってやろうとすると、女が凭れかかって来る拍子に、そこの天井からさがってた青い紐が、首へかかって、それっきり知らなくなったのですが」
哲郎は棚の方を見た。紐もなければ古い煤けた棚には何も見えなかった。
「判った、よし、好い、まあ、下へお出で、お前さんに話がある」
それは頬から頤にかけて胡麻塩髯の見える労働者のような男であった。哲郎は意味が判らなかったが、腑に落ちないことだらけであるから、とにかくくわしいことを聞こうと思って、傍にあるインバを持ち、前になっておりて往く二人の後から跟いて往った。
胡麻塩の男はそこの主翁で、一人は隣家の男であった。主翁は火のない長火鉢の傍で小さな声で云った。
「五六年前に、バーの女給をしてた女が、なんでも男のことかなんかで、あすこで死んだそうですよ、私達は一昨年移って来て何も見ないが、へんなことがあると云って、貸す人も貸す人も三月とはいないのですよ」