Japanische Klassiker mit Furigana
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ひじょうのあい
非情の愛
豊島 与志雄
Lesen Sie 非情の愛 (ひじょうのあい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.831 Zeichen · 24 Bildschirme
沈黙が続いたあとで、千枝子はごく自然に言いだした。
「あちらの、美春さんとか仰言る方、蛭の姿におなりなさるということですけれど、ほんとうでしょうか。」
波多野と秦は顔を見合せ、次に千枝子を眺めた。
「大田さんは、ほんとうだろうといって、笑っていらっしゃいましたけど……。」
大田から聞いたのだとすれば、彼女もくわしく知っているに違いなかった。
美春さんというのは、刳貫細工物問屋の主婦の妹で、四十歳をすぎた小柄な女だった。嘗て結婚したこともあるが不縁になり、子供もなく再婚の意志もなく、姉のもとに身を寄せて、そのまま、年月を過してしまった。――その美春さんが、夏の頃から、一種の幻覚に襲われはじめたらしい。夜中にふと気がついてみると、或は、障子を細目にあけて、或は襖を細目にあけて、誰かがじっと覗いているのである。驚いて、蒲団の上に身を起すと、障子や襖はもうしまっていて、誰もいない。そんなことがしばしば起って、遂には、じっと覗きこんでくるその顔が、蚊帳のところまでやって来た。蚊帳がこちらへふくらむほど、その怪しい顔がのりだしてくる。もう身を起すことも出来なくて、蒲団をかぶり、息をひそめていると、いつしか顔は消えてしまう。