Japanische Klassiker mit Furigana
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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.832 Zeichen · 24 Bildschirme
眼も鼻も口も、額ぎわにごたごたとひと固りになり、ぽってりと嫌味に肉のついた厖大な顎がぶらりとぶらさがっている。馬が提灯じゃない、提灯が馬をくわえたとでもいうべき、ちんみょうな面相。この顎が春風を切って江戸中を濶歩する。
ところで、この阿古十郎にたいして、たったひとつ禁句がある。それはアゴという言葉。いや、言葉ばかりではない。この男の前でうっかり顎を撫でたばっかりに、いきなり抜打ちに斬りつけられ、二人までいのちをおとしかけた。風邪ひきなどは、あぶなくて名も呼べやしない。
この話は庄兵衛も人づてに聞いているので、さすがにそれを憚ると見え、アコ十とかアコ十郎とかと、間違いのないようにはっきりけじめをつけて呼ぶ。ただひとり、この世で阿古十郎を面と向って『顎さん』と呼んで憚らない人間がいる。それは、従妹の花世である。これに限って、阿古十郎は眼をなくして笑いながら、うふふ、なんだい、とくすぐったそうな返事をする。
あまりにも緩怠至極な阿古十郎の態度に庄兵衛は呆れたり腹を立てたりしているが、しかし、そうばかりもしていられないので、北番所の例繰方に空席のあるのを幸い、その株を買って同心の無足見習にしてやった。