Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.494 Zeichen · 26 Bildschirme

Aozora Bunko

「ああ、これ、これ」

と、叫んでみた。

いやまったく! これのれの字も言いおわらぬうちに、それこそ、打てば響くといったふうに、母屋へつづく渡り廊下のほうに軽い足音が聞え、瓦灯口の襖がしずかに引きあけられて、閾ぎわに、十七八の、眼のさめるような美しい腰元がしとやかに手をつかえた。

さすがの顎十郎も、いささか毒気をぬかれたかたちで、

「うへえ、こいつア凄えぞ」

と、口のなかで呟きながら、なんとなく頬の筋をゆるめてあらためて仔細に眺めると、いや、これはたしかに美しい。

早咲きの桃の花とでも言いましょうか。頬がポッと淡桃色で、文鳥のような、黒い優しげな眸で、じッとこちらをうかがっている。

得もいわれぬ馥郁たる匂いが、水脈をひいてほんのりと座敷の中へ流れこんで来る。

伽羅のように絡みつくようなところもなく、白檀のように重くもない。清々しい、そのくせ、どこかほのぼのとした、なんとも微妙な匂いである。

この家の主人の気質は、手紙の文脈からも、だいたい察しられたが、香木五十八種の中にもないような、こんな珍らしい香を惜しげもなく焚きしめるというなどは、よほどの風流。