Japanische Klassiker mit Furigana
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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.248 Zeichen · 27 Bildschirme
ひょろ松は、急に顔を顰め、
「……ところで、妙なことがあります」
「ふむ」
「千賀春は、右手にも左手にも……撥なんざあ持っていなかったと言うんです」
「はてね」
「もちろん、自分は、そんな器用なことは出来なかった、やってしまうと急に浮きあし立って、長火鉢にもたれさせるのもやっとの思い、雲をふむような足どりで逃げ出しました……」
顎十郎は、トホンとした顔つきで天井を見あげていたが、急にひょろ松のほうへふりむくと、
「ときに、千賀春の死骸はまだそのままにしてあるだろうな」
ひょろ松は、上り框から腰を浮かし、
「なにしろ、医者の診立てが早打肩。それに検死がすみましたもんですから、今朝の巳刻(午前十時)家主とほかに二人ばかり引き添って焼場へ持って行ってしまいました」
顎十郎は、立ち上ると、
「そいつは、いけねえ」
いきなり、ジンジン端折りをすると、いまにも駈け出しそうな勢いで、
「方角はどっちだ……東か、西か、南か、北か、早く、ぬかせ」
ひょろ松は、おろおろしながら、
「な、な、なんでも、日暮里だと申しておりました」
「日暮里か、心得た。……まだ、そう大して時刻もたっていない、三枚駕籠で行ったら湯灌場あたりで追いつけるかも知れねえ。