Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.028 Zeichen · 28 Bildschirme

Aozora Bunko

狂言は黙阿弥の『小袖曽我薊色縫』で、小団次の清心に粂三郎の十六夜、三十郎の大寺正兵衛という評判の顔あわせ。

湧きかえるような掛け声をあびながら小団次が強請の啖呵を切っていると、桟敷の下で喧嘩がはじまった。足を踏んだ、踏まぬという埓もない酔漢同士のつかみあいだったが、このてんやわんやの騒ぎの最中に、どこからともなく、こんな呼び声がきこえてきた。

「帰りが、こわいぞ。帰りがこわいぞ」

海洞に潮がさしこんでくるような異様に朧ろな声で、はっきりと三度までくりかえした。

なにしろ、そんな騒ぎのおりからでもあるし、大して気にするものもなかったが、先刻のひわという腰元だけは、これを聞くと、また血の気をなくして、

「あ、あれは、お祖師様のお声です。……ああ、怖い、おそろしい」

と、耳をふさいで突っぷしてしまった。

なにをつまらぬ、で、そのときは笑いとばしたが、このことが、なんとなく不気味に朝顔のこころに残った。

「ひわと申すものは、日ごろから癇のつよい娘でございまして、よく痙攣けたり倒れたりいたします。たぶん、夢でも見てそんなことを口走ったのでございましょうが、またいっぽうから考えますと、日ごろの信心を愛でられ、お祖師様がひわの口を通して、ご示験くださったのではありますまいか。