Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
サーッと、地を払ってゆく雨の飛沫が、濛々と、霧のように白くたちこめた。時雨堂の破れ庇からは、滝となって水玉が溢れ、半ば開け放されてある中の灯は、消えんばかりに揺らめいている。
「どいつだッ……卑怯なやつ……、多市、多市」
降りしきる雨の中に、銀五郎の叫びが切れぎれにするのだったが、叫ぼうとする息も、起きようとする懸命も、沛然たる雨の力に圧倒されて紫陽花のように気崩れてしまう。
出来ごとが、あまり瞬間だったので、奥の居間に入った俵一八郎も万吉も、少しもそれを知らず、ただ、屋根を走る疾風の雨の声に、顔を見合せていたのである。
だが、たッた今、銀五郎の手で寝せつけられた多市は、何かを感じて、
「おや?」と、胸を騒がした。そして、不自由そうな身を蚊帳の中からいざり出しながら、
「親分、親分! ……」
呼んでみたが、返辞はない。
閉めかけていた戸もそのまま開いている。
戸の間から、外の暗澹たる凄色が、悪魔の口のように見えた。吠えたける風の中に、まっ青な稲光りが明滅していた。
「どうしたのだろう? そういえば今、妙な音が……」多市の顔色に、泣きだしそうな不安が掠った。