Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
さかのぼるので舟脚が遅い、面を掠める飛沫の霧! 息づまりそうな川風に鬢髪が立つ。
「おお、六軒家の藪岸へつけたな!」弦之丞は、さらに必死と漕ぎだしたが、岸が近づくに従って、思わず櫓音を偸ませた。
蜂須賀家の船蔵が、すぐ目の前に横たわっているからだ。百本杭の柵が見え、掘割が見え水門が見える。乱松の間から高く聳えているのは汐見櫓、番所の灯がチラチラと水に赤い影を縒らせ、不寝の番が見張っている。
そこから続いて川下へ数丁、塀囲いの別廓をなして、宏壮な棟を望ませている所は、阿波守重喜が大阪表の別荘――いわゆる安治川のお下屋敷。ここ須臾の間に、法月弦之丞が、探りの眼をつけ初めた目標の建物である。
六軒家の梟林に、荒れはてた誓文神の祠がある。この辺一帯、梟や渡り鳥の巣をかけるのが多く、冬になると綿屑のようなものがどの梢にも絡まって見えるそうな。
今は秋。林の中は芒明りといいたいくらい、ボウと白光の花叢がほのかである。
川から上がった弦之丞、草を分けて奥へ奥へと入ってゆく。そこで、誓文神の狐格子をふり仰いで、はてな! と少し立ち迷った。
「たしかにこの辺へ来た筈だが?」