Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
同じように、涙の目をふいて、側の女が静かに手を伸べると、お千絵はその掌へ、ま白な珠をサラサラと鳴らしてのせた。水晶の玉をつらねた数珠である。
今日は、まる十年と二月前に、世阿弥が江戸を出た日であった。
床に、一幅の軸がかけられてある。端厳な肖像が描かれてあった。それがお千絵の父である、阿波へ入ったまま消息をたって、今に知れぬ甲賀世阿弥の像である。
幕府は死んだものとみなして、絶家の命を下してしまった。お千絵とても、今では、すでに世に亡い父と諦めている。
「たみや」
今、お千絵は永い回向をすました。
「はい」
「しんしんと寒くなりましたことねえ……」
「師走といえば、夜霜の立つ頃でございますから」
「さだめし外の世間には、寒風が吹いておりましょうね」
「ここへは、凩の声もきこえてまいりませぬ」
「ああ凩は嫌……浮世の寒風は嫌……。千絵はこのまま、この地底の部屋に埋もれてしまいたい」
「たみもご一緒に埋もれまする。……けれどお嬢様。朽ちた落葉の下からも、いつか春が芽ぐむではございませぬか。ヒョッとして、たみの兄が帰ってくるか、また、弦之丞様でも江戸へおいでになれば」