Japanische Klassiker mit Furigana
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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme
そこらに宅の出入の車宿がありましたが、その親方がいつも、「御前様が、御前様が」といいますから、「御前様とは誰なの」と聞きましたら、「大乗寺の御前様でさあ」と、さもさも知らないのかというような顔をしました。大乗寺の住職というのはよほど敏腕家らしく、宮内省へも出入して、女官なども折々見えるとのことでした。ちょうど吉田屋の裏になります。大事な御得意なのでしょう。
車宿は通りへ出て一番大乗寺に近く、それこそ傾きかかった三軒長屋の端なのでした。崩れた棟瓦の間から春になると蒲公英が咲きました。どうせ持主も改築するつもりで、うっちゃって置いたのでしょう。その親方は非常に健脚で、遠路を短時間に走るのが自慢でした。遠慮のない大声で物を言いますが、人柄は素朴で、引子を二人位置き、子供は三人あって、口数の少ない、おとなしそうな妻と睦まじく暮らしていました。車を引き込むので土間は広いのですが、ただ二間のようですから、引子はどこへ寝かすのかと聞きましたら、「二階です」といいます。そう言われて気を附けて見れば、土間から梯子がかけてあります。低い屋根ですから、きっと立っては歩かれない位でしょう。