Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme

Aozora Bunko

いさかい

門を静かに開けて、敷石を踏んで玄関にかかると、左は勝手へ行く道、右の荒い四つ目垣の中は花畑ですが、すがれ時で目に附く花はありません。格子戸の中では女中が掃除をしていました。

ふと早口の甲高い声と、静かな諭すような声が聞えます。こんなことがあるとは聞いていましたが、今が初耳でした。立って行こうとする女中を、手を振って止めて、「用事があって来たのではないのだから、取次がないで下さい」と小声でいうと、女中も心得たもので、そのままそこにいました。足音を忍ばせて門を出るまで、声はまだ聞えていたようでした。

門前は人通りもあり、車も往来しています。今そんな道を歩く気はしないので、すぐ向いの小路に這入りました。そこらの屋敷町をうねりうねり行って、薔薇新の前を通ります。あまり人通りはありません。

歩きながら考えました。何のことか知りませんが、私にはただお兄様がお気の毒でなりませんかった。今日は土曜日ですから、昼前はお役所でしたろう。夜はまたきっと何かの会でしょう。それでなくても、いつも書きものは溜ってお出なのですから、大事な時を潰すというばかりでなく、そのお気持の悪さを思いやって、お機嫌の悪い時のお兄様の俯向いた額に見える太い脈を思浮べるのでした。