Japanische Klassiker mit Furigana
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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme
お兄様はと見返ると、板張に薄縁を敷いたのに、座蒲団を肩にあて、そこらにあった煙草盆から火入れを出し、横にしたのを枕にして、目を閉じて寝ていらっしゃいます。私は目の下に吹井戸のあるのに気がついて、行って見たくてなりません。そっとお兄様の傍へ行って、
「きれいな吹井戸が下にありますが、見て来てもようございますか。」
聞きましたら、目を閉じたまま、「ああ行ってお出」と仰しゃるので、喜びはしましたが、お婆さんが鼻緒を直していますので、履物がありません。
「吹井戸を見たいのだけれど」といいましたら、お婆さんはそこに脱ぎ捨ててある草履をさして、「それを穿いていらっしゃい。滑りますよ」といいます。
足の倍もあるのをはいて、丸太を段にした狭い坂をそろそろ下りて行きます。古い井戸側は半分朽ちて、まっ青な苔が厚くついていて、その水のきれいなこと、溢れる水はちょろちょろ流れて傍の田圃へ這入ります。釣瓶はなくて、木の杓がついていました。胡瓜が二本ほど浮いて動いています。流には目高でしょう。小さな魚がついついと泳いでいます。水すましも浮いています。天気つづきで田にはよく稲が育って、あちこちで蛙がころころ鳴いて、前に長く住んだ向島小梅村の家を思い出しました。