Japanische Klassiker mit Furigana
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こくてん
黒点
豊島 与志雄
Lesen Sie 黒点 (こくてん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.665 Zeichen · 62 Bildschirme
」
私はお清と約束した通り決行した。全くそれは決行と云ってもいい程度のものだった。平素の憤懣を晴らすというような、また空漠とした愛慾に惹かされるというような、また何かしら未知の世界に憧れるというような、いろんな気持が一種の熱となって、私は夢中に燃え上っていたのである。
二日の間に私はあるだけの智恵をしぼって考えた上で、父母の前はどうにかごまかすことが出来た。そして他処行の着物を――それも久留米絣のものだったが――着込んで、古いマントにくるまって、早くから家を出かけた。神保町の四つ角で電車を降りると、交番の時計はまだ七時に三十分余りも前だった。その間古本屋を覗きながら、何度も時計を見に戻って来た。巡査の顔付や眼付は眼中になかった。愈々七時になると、一二一二という足取りで出かけた。そしてカフェーの扉の少し手前でぴったり立止った。擦硝子の電球を見るような硝子扉だった。電車や自動車や自転車や人間が、素晴らしく沢山通っていた。真暗な空と冷い風との中で、何もかもが、明るい街路までが、幻影のように浮出して見えた。
お清が出て来てくれなかったら、私はいつまでもつっ立っていたかも知れない。