Japanische Klassiker mit Furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lesen Sie おせん von 邦枝 完二 (くにえだかんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.074 Zeichen · 148 Bildschirme
「絵をかいてたんじゃねえのかい」
「絵なんざかいちゃァいねえよ。――おめえにゃ、この匂がわからねえかの」
「膠だな」
「ふふ、膠は情ねえぜ」
「じゃァやっぱり、牛の皮でも煮てるのか」
「馬鹿をいわッし。おいらが何んで、牛の皮に用があるんだ。もっともこの薬罐の傍へ鼻を押ッつけて、よく嗅いで見ねえ」
「おいらァ、こんな匂は真ァ平だ」
「何んだって。この匂がかげねえッて。ふふふ。世の中にこれ程のいい匂は、またとあるもんじゃねえや、伽羅沈香だろうが、蘭麝だろうが及びもつかねえ、勿体ねえくれえの名香だぜ。――そんな遠くにいたんじゃ、本当の香りは判らねえから、もっと薬罐の傍に寄って、鼻の穴をおッぴろげて嗅いで見ねえ」
「いってえ、何を煮てるのよ」
「江戸はおろか、日本中に二つとねえ代物を煮てるんだ」
「おどかしちゃいけねえ。そんな物がある訳はなかろうぜ」
「なにねえことがあるものか。――それ見ねえ。おめえ、この袋にゃ覚えがあろう」
鼻の先へ付き付けた紅の糠袋は、春重の手の中で、珠のように小さく躍った。
「あッ。そいつを。……」
「どうだ。おせんの爪だ。この匂を嫌うようじゃ、男に生れた甲斐がねえぜ」