Japanische Klassiker mit Furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lesen Sie おせん von 邦枝 完二 (くにえだかんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.074 Zeichen · 148 Bildschirme
七
鏡のおもてに映した眉間に、深い八の字を寄せたまま、ただいらいらした気持を繰返していた中村松江は、ふと、格子戸の外に人の訪れた気配を感じて、じッと耳を澄した。
「もし、今晩は。――今晩は」
(おお、やはりうちかいな)
そう、思った松江は、次の座敷まで立って行って、弟子のいる裏二階へ声をかけた。
「これ富江、松代、誰もいぬのか。お客さんがおいでなされたようじゃ」
が、先刻新七におこのの後を追わせた隙に、二人とも、どこぞ近所へまぎれて行ったのであろう。もう一度呼んで見た松江の耳には、容易に返事が戻っては来なかった。
「ええけったいな、何んとしたのじゃ。お客さんじゃというのに。――」
口小言をいいながら、自ら格子戸のところまで立って行った松江は、わざと声音を変えて、低く訊ねた。
「どなた様でござります」
「わたしだ」
「へえ」
「白壁町の春信だよ」
「えッ」
驚きと、土間を駆け降りたのが、殆ど同時であった。
「お師匠さんでおましたか。これはまァ。……」
がらりと開けた雨戸の外に、提灯も持たずに、独り蒼白く佇んだ春信の顔は暗かった。
「面目次第もござりませぬ。――でもまァ、ようおいでで。